多世代住宅は成功するか

 

 日本と同じように、高齢化と少子化が急速に進むドイツで、世代間の交流を深めるための、新しい試みが行われている。ドイツ連邦家庭省のウルズラ・フォン・デア・ライエン大臣は、2010年までに9800万ユーロ(147億円)を投じて、子どもを持つ夫婦と、高齢者たちが同じアパートに住む「多世代住宅」(Mehrgenerationshaus)439ヶ所を支援する方針を明らかにした。

 現在シュトゥットガルトでは、すでに多世代住宅が順調な滑り出しを見せている。ここではお年寄りたちが子どもたちの宿題を手伝ったり、親が働いている間に幼い子どもたちの面倒を見たりする。

一方子どもたちは率先して、お年寄りの車椅子を押したり、話し相手になったりしている。つまり、世代間の助け合いが進んでいる。また、高齢者と子どもたちがいっしょに劇を上演する計画もある。

子どもたちが同じアパートに住み、住民たちが集う共有スペースがあるので、ふつうの老人ホームよりも、お年寄りたちは孤独感に悩むことが少ない。シュトゥットガルトの多世代住宅では、お年寄りたちは自分だけの寝室、浴室、トイレを持っているが、台所は他の人と一緒に使う。つまり学生の共有住宅(Wohngemeinschaft)のようなものだが、毎月の家賃は400ユーロ(6万円)と低めに抑えられている。

 ドイツ政府は、多世代住宅1ヶ所につき、毎年4万9000ユーロ(735万円)の振興金を出して、積極的に後押しする。フォン・デア・ライエン大臣は、「高齢化が急速に進む中、多世代住宅は、お年寄りが持つ貴重な知識や経験、ノウハウを若い世代に伝えるという意味もある」と述べ、ヨーロッパでも珍しいプロジェクトの重要性を強調している。

 2001年には、年齢が60歳以上の市民が人口に占める割合は19・9%だったが、2050年にはその比率が25・2%に上昇する。市民の平均寿命は、2003年の時点で男性が75・4歳、女性が81・2歳だったが、医学の進歩や食生活の改善によって、今後も長くなる傾向にある。

 一方、ドイツの学校では授業が半日で終わってしまう上に、託児所や保育園の数が他のヨーロッパ諸国に比べて少なく、料金も割高なので、女性が子どもを持つと、仕事を続けるのが極めて難しい。

このため、出生率は下がる一方で、2003年には1・34と
EUで最も低い国の1つとなっている。企業は半日しか働かない女性を、雇用したがらない傾向が強いのだ。多世代住宅が増えれば、親しいお年寄りたちが子どもの面倒を見てくれるので、母親たちは1日中安心して働くことができる。

 個人の空間を大事にするドイツ人の中には、Wohngemeinschaftに抵抗感を抱く人も多いだろう。しかし、他の人との交流をより大切だと考える人ならば、多世代住宅に住もうと考えるに違いない。

個人主義が強く、核家族化が浸透しているドイツで、世代の間の垣根を減らして交流を促進しようとする、
フォン・デア・ライエン大臣のユニークな試みは、どのような成果を生むだろうか。その行方に注目したい。

筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

週刊ドイツ・ニュースダイジェスト 2006年12月1日